「任意売却」とは,自ら不動産を売却することで、競売とは正反対の方法と言えます。競売価格は
市場価格よりもかなり低めに設定されることがほとんどで、手元に残るお金はほとんどありませ
ん。ですが、任意売却では借金を返した後に手元に残るお金で生活の再建も可能です。住宅ローン
の返済に困ったら、任意売却という選択肢も一つの方法です。
前回のコラムで,住宅ローンの返済が苦しくなった場合に,「任意売却」という方法があることをご紹
介しました。
「任意売却」とは、自ら不動産を売却することをいいます。
これまでのコラムで紹介した「競売」は、自分の意思とはかかわりなく、強制的に不動産が売られてし
まうものでした。
「任意売却」は「競売」の対義語とイメージしていただくとよいでしょう。強制的にではなく,自分の
意思で不動産を売却してしまう方法です。不動産業界などでは「任売(にんばい)」と省略することも
あります。
自分の意思で売ることと、強制的に売却されてしまう競売手続とでは、実は大きな違いがあります。
今回のコラムでは,自分の意思で売ることのメリットをご紹介したいと思います。
まずは任意売却のデメリットを見ておきましょう。
マイホームを手放さなくてはならないので、ご自身や家族にとってショックが大きいことは間違いあり
ません。また、引越しにかかる経済的負担が生じ、引っ越しにより生活環境が大きく変わるデメリット
があります。
ですが、これは競売でマイホームが競落された場合も同様なので、いずれにせよ甘んじなければいけな
い現実です。
また、任意売却は買い手がいなければ成立しません。そのため,なかなか売却のめどが立たず、ローン
その他の債務の返済計画が立てられない場合もあります。
任意売却の最も大きなメリットは,競売よりも「高く売れる」可能性があるということです。
競売では、裁判所が定めた金額をもとに入札が行われます。
裁判所の職員が現地調査を行って入札金額を決定します。この入札金額を「買受基準価格」といいま
す。この「買受基準価格」は,市場価格より低く設定されることが通常です。つまり、不動産業者を通
じて売却するよりも安い価格に設定されてしまいます。
その理由はいくつかあります。
①できる限り買い手がつくようにするために、安くする必要がある
②元の住人が住んでいたままの状態で引き渡されるので、不動産としての価値が高くない
③内覧(内見)ができないことが多く、買い手としてはあまり高い価格で購入したいと考えない
④元の住人が退去しない場合、退去に必要な手続(裁判)は、不動産を買い受けた人が行わなければならない
このような事情で、競売価格は低く設定せざるを得ないのです。
買受基準価格は,各物件によって異なりますが、おおむね市場価格の7割~4割程度です。不動産業者
を通じて売却する場合に比べて,半額程度にしかなりません。
買受基準価格が市場価格より低い,これが競売の重要なポイントです。
ローンの滞納等で借金の返済が滞っている場合,何もアクションを起こさなければ,競売で安くマイホ
ームが売られてしまいます。
落札された金額から,裁判所の費用(30~40万円程度)や借金を差し引いて残った金額は元の住人(競
売をかけられた人)のもとに支払われますが、借金を精算した後の残額はほとんど無いかもしれませ
ん。
ですが,任意売却で買い手がつけば、競売よりも高い価格でマイホームを売却できます(もちろん,競
売のように裁判所に対して余計な費用を支払うこともありません)。その分,自分の手元に返ってくる
金額も多くなります。
そのお金で,生活を立て直すのも可能です。
今後の生活の再建を考えれば,競売で安く売られてしまうくらいなら,任意売却で高く売る選択をした
方がメリットが大きいかもしれません。
任意売却は競売よりも高く売れるということを知っておくと,いざという時に選択の幅が広がります。
任意売却は生活再建のため,有効な選択肢のひとつなのです。
ただし,常に任意売却ができるというわけではありません。任意売却にはいくつかクリアしなければな
らないハードルがあります。
これについては次回のコラムでご紹介したいと思います。